悪の勇者と奴隷の姫騎士 第2章 10

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 腰にした一振りの刀を抜き放ち――幾人もの命を、その刀身の錆へと変えていくのだった。白い刃に、赤い血糊が纏わり付き……少年の視界を肉片が染め上げていく。 「な、なんだッ!?」 「あの少年兵は……!?」  乱戦の只中に突如現れた、得体の知れない怪物。その存在に、王国軍の陣形が僅かに乱れると―― 「今だッ! 勇者の導きに従い、この戦場の血路を開けぇッ!」  ――バルスレイの怒号に突き動かされた兵達が、雪崩の如き勢いで王国軍へ接敵していくのだった。  予想だにしなかった敵軍の「新兵器」を前に、王国軍は為す術もなく数で勝る帝国軍に押し潰され――敗走していく。  それは、アイラックスという男によって一度は覆された戦況が、本来の形へと揺り戻される瞬間であった。 (俺は……俺は必ず、母さんのところへ帰るんだ。そのためなら――)  ――そう。  この戦いで初陣を飾った若き勇者は。 (――なんだって、やってやる。誰だって、殺してやる!)  命を奪うことを恐れることもなく、数多の兵士をその手にかけたのだ。  人の胸中に微かに潜む「殺意」を膨らませ、理性を押し潰す「勇者の剣」の力によって。  ――意識を乗っ取るわけではない。あくまで、己自身の胸に在る悪意。剣はそれを、強く引き出しているに過ぎないのだ。  だからこそ、後に少年は――ありのままの自分が犯した罪を、知ることになる。     
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