892人が本棚に入れています
本棚に追加
腰にした一振りの刀を抜き放ち――幾人もの命を、その刀身の錆へと変えていくのだった。白い刃に、赤い血糊が纏わり付き……少年の視界を肉片が染め上げていく。
「な、なんだッ!?」
「あの少年兵は……!?」
乱戦の只中に突如現れた、得体の知れない怪物。その存在に、王国軍の陣形が僅かに乱れると――
「今だッ! 勇者の導きに従い、この戦場の血路を開けぇッ!」
――バルスレイの怒号に突き動かされた兵達が、雪崩の如き勢いで王国軍へ接敵していくのだった。
予想だにしなかった敵軍の「新兵器」を前に、王国軍は為す術もなく数で勝る帝国軍に押し潰され――敗走していく。
それは、アイラックスという男によって一度は覆された戦況が、本来の形へと揺り戻される瞬間であった。
(俺は……俺は必ず、母さんのところへ帰るんだ。そのためなら――)
――そう。
この戦いで初陣を飾った若き勇者は。
(――なんだって、やってやる。誰だって、殺してやる!)
命を奪うことを恐れることもなく、数多の兵士をその手にかけたのだ。
人の胸中に微かに潜む「殺意」を膨らませ、理性を押し潰す「勇者の剣」の力によって。
――意識を乗っ取るわけではない。あくまで、己自身の胸に在る悪意。剣はそれを、強く引き出しているに過ぎないのだ。
だからこそ、後に少年は――ありのままの自分が犯した罪を、知ることになる。
最初のコメントを投稿しよう!