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彼にとってのあるべき勇者の姿とは、それほどまでに掛け離れているのだ。血の雨を浴びた、今の帝国勇者の容貌は。
「……なんにせよ、現代の勇者が我々にとっての脅威であることに変わりはない。――私が一騎打ちに出向こう、兵達が勢いを削がれている」
「いえ、私が先に行きましょう。将軍に万一のことがあれば、王国軍は士気の大半を失います」
「騎士団長……」
「……お任せください。我が子に平和な王国を見せるためにも――私は、行かねばならぬのです」
だが、兵達に勢いを取り戻すための一騎打ちに志願したのは、そんな私怨が原因ではない。そんなことでは、騎士団長など務まらない。
彼が戦いに出向くことを決断させた最大の動機。それは、彼らが守るべき人々――掛け替えのない家族なのだ。
そのためにこそ、彼は今、命を懸けている。「帝国勇者の戦い方」という敵情報を、少しでも多くアイラックスに伝え、この戦いに活路を見出すために。
勝ち目のない戦いに、希望を齎すために。
「我こそは王国騎士団長ルーク! 帝国勇者殿に、一騎打ちを申し出たい!」
「……」
勢いを殺され、膠着状態に陥った王国軍を掻き分け、騎馬に跨った二人の男が現れる。その二人――アイラックスと騎士団長ルークは、帝国勇者を一瞥し、この先に待ち受ける戦いの過酷さを予感していた。
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