892人が本棚に入れています
本棚に追加
そして彼らが互いに頷き合い――ルークの騎馬が先陣に踏み込んだ瞬間。帝国勇者は彼の気迫に触れ、本能的に剣を構えるのだった。
「その剣の構え。一騎打ちの受諾と判断させて頂く!」
「……」
「――行くぞッ!」
一触即発。そう形容できる剣呑な空気の中で、先に動いたのはルークの方だった。彼の騎馬は強烈な踏み込みで土埃を巻き上げ、帝国勇者目掛けて突進していく。
一方、帝国勇者と呼ばれる少年は何一つ語ることなく――ルークの気勢に怯むこともなく。ただ静かに、剣を構えていた。
(さぁ……貴様の剣を見せてみろ。この命、ただで貴様には――!)
そして、間合いを詰めたルークが、手にした両刃剣を振り上げた瞬間。
彼の胸を――片刃の剣が、貫いていた。
主の手元から打ち放たれたその剣は、二角獣の幻影を纏い――ルークの鎧ごと彼を貫通し、馬上から転落させてしまう。
その衝撃音が、静かになった戦場のただ中に虚しく響き渡っていた。
(――に、が、起きた。何が、起きたのだ。私は、なぜ……どのような技で……!?)
遠のいていく意識の中で、ルークは己の敗因を模索する。あまりにも一瞬の出来事ゆえ、自分が死んでいく理由さえ掴めない。
その悔しさが目元に溜まろうとしていた時。ようやく彼は、胸に突き立てられた勇者の剣に気づくのだった。
最初のコメントを投稿しよう!