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(そうか、奴は……恐るべき速さで、己の剣を投げ付けたのか……。剣士の半身たる剣を投げるなど、やはり貴様は勇者失格よ……)
自分が気づけたなら、アイラックスにも見えていたはず。その希望的観測に胸を撫で下ろすルークは、静かに目を閉じていく。
(ああ……ロークよ。せめてお前だけは、幸せを……)
そんな彼が最期に想い浮かべたのは、幼い我が子であった。父として、騎士として生きた彼の戦いは、その瞬間に――ようやく、終わりを迎える。
「ルーク……!」
その最期を見届けたアイラックスは、暫し目を閉じ――静寂に包まれた戦場の中で、黙祷を捧げる。
そして――僅かな時を経て、再びその眼が開かれた時。アイラックスの瞳には、燃え滾るような闘志が宿っていた。
ルークの命と引き換えに、帝国勇者の技を、己の眼に刻みつけて。
「遥か昔の帝国騎士が、空を舞う魔王の手先と戦うために編み出したという、伝説の対空剣術――『帝国式投剣術』。数十年前に帝国から入手した古文書に記されていたが、まさか実在していたとはな」
「……」
「――ルークの命が、私にそれを教えてくれた。彼と同じ父親として……王国軍人として。私はなんとしてもそれに応えねばならん。貴殿を、倒さねばならん」
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