悪の勇者と奴隷の姫騎士 第1章 1

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 アイラックスの騎馬が、静かに戦場へ踏み込んでいく。ルークを失った王国軍の兵達は、縋るようにその姿を見守っていた。  もはや彼らにとっては、アイラックスだけが希望なのだ。  帝国勇者はルークの骸からゆっくりと己の得物を引き抜き、アイラックスと相対する。騎士団長のルークを倒したにもかかわらず、その眼には一片の驕りもない。 『チヲ……チヲヨコセ……』  しかし、その刀身から漂う禍々しい「力」は、今も帝国勇者の身体に渦巻いている。剣から響く「声」は、鍔元から血を求めるように呻いていた。 「……さすがだ。同じ剣士として、敬意を表する。改めて、私からも一騎打ちを申し出たい」 「……死ぬのが、怖くはないのか。あなたは」  そして、少年の眼にアイラックスが感嘆する瞬間――沈黙を貫いてきた帝国勇者が、初めて口を開いた。  今までの立ち回りとは裏腹に、その声色は……まるで、アイラックスを気遣うかのような色を湛えている。 「死にはしないさ。私にも、帰りを待つ娘がいる。必ず生きて、娘の許に帰る。それだけだ」 「……ここで逃げ帰れば、容易く叶う願いじゃないのか。俺は、逃げる敵まで斬るつもりはない」 「私が望むのは、平和な王国に生きる娘に会うことだ。逃げ帰った先に、その平和はない」     
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