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悪の勇者と奴隷の姫騎士 第1章 1
荒れ果てた大地に轟く、怒号の嵐。吹き上がる砂埃。
空に飛び散る血飛沫と、剣と剣が交わる衝撃音。
全ての事象が、戦場と称される一つの領域に結集していた。数多の意思が、その空間の中で激突し――失われていく。
「怯むな! 帝国の侵略者から、我が王国の大地を守るのだッ!」
そのさなか。
馬上で雄々しく大剣を振るい、並み居る敵兵を薙ぎ倒していく猛者がいた。一角獣をシンボルに持つ国旗を、空高く翳しながら。
艶やかな黒髪と、猛々しくも気高さを湛えた瞳を持つ、その男は――激戦のただ中に己の叫びを轟かせ、同胞達を鼓舞していく。
その荘厳な姿に焚き付けられた兵達は、身体の奥底から噴き出すような雄叫びを上げ、敵勢に向かっていった。
「声一つで、これほどの士気を……。さすがは王国一の守り手と謳われたアイラックス将軍だ……! 先の戦で、帝国随一の膂力を誇るというアンジャルノン将軍を破っただけのことはある」
「バルスレイ将軍! 圧倒的に数で勝っているはずの我が方の軍勢が、アイラックスの軍に押されております! このままでは……!」
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