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「もう、ここには、戻ってこないつもりかも…」
そう口にした涼さん。口調は落ち着いているものの、その言葉には、不安や悲しみだけじゃない、いろいろな感情が入り混じっているように聞こえて、とにかく痛々しく思えた。
そして同時に、南さんが、そこまで、思い詰めていたんだと知らされる。
「迎えに行かないのか?」
一郎くんが、涼さんに声を掛ける。
ゆっくりと、首を横に振った涼さんは、「南が帰ると決めて帰ってこないと、意味ないから」と返事をする。その言葉は、とても重たくて、考え抜いて出した答えなんだと伝わってくる。
確かにそうかもしれないけど…。
南さんの気持ちは分かりすぎるくらいにわかる。
いや、分かるなんて言ってしまったら、失礼だとは思う。南さんの今の苦しみは、到底私が想像できるものではないんだから。
でも、私も、このお腹の中の命に、もしものことがあったら、一郎くんに申し訳なくて、もう一緒にはいれないと思ってしまうかもしれない。
結婚を決める時だって、こんな辛い思いを、私と結婚することでさせるかもしれないと、不安で怖くて、なかなか決断できなかった。
でも、一郎くんは大丈夫だと言ってくれた。
きっと、涼さんだって、何があっても、南さんの事を支えて行きたいと思っているはずだ。
南さんは、ただ、一人になりたかったのかもしれないけど…
南さんの気持ちを、涼さんの気持ちを思って、心配だけで埋め尽くされた心を処理できずに、ただその場にいることしか出来なかった。
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