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番外編ー4
「おい岩永、大丈夫か?今日は、帰れそうか?」
金曜日の午後。
本日何度目かの室長の言葉。
「はい、大丈夫です」
これも、何度目かの同じ返事だった。
出向先の会社は、とにかくコンプライアンスにうるさかった。
毎週水曜日は、ノー残業デー。
守れなかったら、代替日を。
残業は月何時館以内にと個々に目標が定められていて、守れなかったら管理職の評価に関わってくる。
先週、先々週と、急なシステムトラブルの対応で、残業も多かったし、ノー残業デーも達成出来ていない。今日、定時で上がらなければ、室長はその事を上に報告しないといけないらしく、朝からソワソワしている。
何もなければ、問題なく定時で上がれる。
そう、何もなければの話なんだが。
トラブルというのは、たいがい急に起こるもので、それを室長も恐れているのだ。
大きなオフィスビルのシステム管理を担当する部署で働いている。エレベーターに関わるシステムの担当者は、俺一人であり、そこにトラブルが生じた場合、俺が残るしかなくなるのだ。
急を要さないようなことも多いのだが、いれば対応せざるを得ないので、一刻も早く帰って欲しいというのが、室長の本音だと思う。
ブルブルブルブル…
デスクの上のスマホが震える。
表示されたのは、珍しい人物からのメッセージ。
お久しぶりから始まる、社交辞令の様な文章が気になり、手に取ってタップすると、それを見ていた室長が、「どうした?急用なら、遠慮なく、有給使って帰りなさい」と、後ろから声を掛けてくる。
それは、懇願するような口調だった。
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