番外編ー4

5/22
前へ
/381ページ
次へ
古い木製の引き戸を開けると、いらっしゃいの声に続いて、「おじさーん!」と、太陽が俺の顔を見るなり駆け寄ってくる。 「早かったね」と言った太陽に、「水曜日はごめんな」と謝る。 毎週水曜日のノー残業デーには、ここに寄って太陽に会って帰るのが、最近の俺のルーティーン。特に約束している訳ではないが、いつの間にかそれが当たり前になってしまっているので、水曜日に寄れない時には、ここに電話を入れて、その事を太陽に伝えるようにしている。 水曜日以外にも、早く帰れた日には、ここを覗けば、大概太陽がいるので、母親が迎えに来るまでの間、一緒に過ごす。 「入らないの?今日の定食、とんかつだって」と、いつもだったらすぐに店の奥の座敷へと一緒に向かうのに、一向に入ろうとしない俺を、怪訝そうに見ながらも、俺の好物のとんかつだよと嬉しそうに伝えてくる太陽。 俺が仙台に来たばかりの頃からだから、太陽とここで過ごすようになって、今年で五年目。お互いの好きな食べ物も、すっかり把握出来ている。 そんな太陽に、「ごめん…」と申し訳なさそうに伝えれば、どうしたの?と言わんばかりに首を傾げてくる。 「今日は、約束があって、一緒にごはんは食べられないんだ」と言うと、「えー」と低い声を漏らし、俺の後ろにいた南のことをチラッと横目に見る。 明らかに落胆の色を浮かべた太陽に、罪悪感を感じながら、「その代わり、キャッチボールしないか」と、罪滅ぼしの提案をする。 先週も今週も、残業続きで来れてなかったから、太陽も今日を楽しみにしてくれてたんだと思うと、心から申し訳なく思うが、「いいけど…」と、何か言いたげながらも、太陽が承諾してくれたので、胸を撫で下ろす。
/381ページ

最初のコメントを投稿しよう!

578人が本棚に入れています
本棚に追加