578人が本棚に入れています
本棚に追加
「おじさーん、またね!」
夕陽に照らされて、銀色に輝くススキの穂が揺れる傍で、母親と共に帰る太陽の後ろ姿を見送っていた。
「ねぇ、良かったの?」
俺の隣にいた南が、そんなことを聞いてくるので、何の事だろうと、南の方を見れば、ゆっくりと二人の背中に視線を送る。
ちらりと、顔だけで後ろを振り向いた、太陽の母親に、軽く会釈をすれば、あちらも会釈をして、また前を向いた。
「あぁ。いつも、母親が迎えに来るまでの間遊んでるだけだから」と説明すれば、「そう」と了解の意を伝える返事をしたものの、その表情はすっきりとはしていなかった。
まあ、多分太陽の事だけが、南をこんな顔にさせているわけじゃないんだろうけど…
「ごめんな、待たせて。お腹空いたろ?」
「いや、お腹は大丈夫?」
その言葉は気遣いではなく、本心なのかもしれない。食事を食べるような心境ではないんだろう、きっと。
「どうする?どこか行く?それとも、ここで話す?」
俺がそう言うと、えっ?と少し驚いた様子の南。
「話があってきたんだろ、千波に」
そう言われて、もう誤魔化す必要のない事を知った南は観念したように、ふっと表情を緩めた。
最初のコメントを投稿しよう!