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「うん。早く帰れる時だけだから、週に1〜2回だけど、ここでキャッチボールしたり、さっきの定食屋で宿題教えたり、だらだら一緒に漫画読んだりして、腹が空いたら一緒に夕飯食べてって感じ」
「そうなんだ…」
「うん」
そこで途切れた会話。
本当なら、居心地が悪くなるような沈黙なんだろうけど、夕日を受けた水面がキラキラと綺麗で、赤く焼けた空も、周りで揺れてるススキも、遠くで鳴いてる鳥の声も、そんな夕方の風景に助けてもらって、苦しいとは感じなかった。
「たいした説明もなく、付き合わせて悪かったな」
「ううん。わたしも見てて楽しかったから」
「そう?」
「うん」
そこで再び途切れた会話。
目の前の風景を眺めている南の横顔。風に吹かれて露わになった顔全体を、夕日が赤く照らしていた。
「知り合いなの?」
「いや、こっちに越してきたばかりの頃に、偶然あの店で出会って、それからなんとなく…」
「珍しいね、岩永くんが。高橋くんならありそうな話だけど」
「フッ、たしかにそうだよな」
南が言いたいことは分かった。
どちらかと言えば、寡黙で人見知りな俺が、自分から見ず知らずの人に話たりする事はほとんどなくて、話しかけられたりしても、必要以上に関わる事もない。
それは昔からで、自分からいろいろ絡んだり出来るタイプじゃないけど、幸い周りに、千波とか、親友の高橋とか、人付き合いの上手い奴らがいてくれて、それに助けられて、自分が知らないうちに交流の輪が広がっていくような感じだった。
南も同じようなタイプの人間で、俺たちは、大学の仲間内でも、黙って周りの奴らがはしゃいでるのを見て楽しんでいるようなポジションにいつもいた。
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