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太陽と出会ったのは、本当に偶然だった。
本社で自分が開発に携わっていたAIを導入した新しいエレベーターシステム。それが、新規採用される事になって、仙台に転勤になった俺。
こちらに来て、システムが出来上がるまでの間は、職場に籠もりっきりで徹夜続きのような状態で仕事をしていた。
実際に稼働し始めて、しばらくはそんな生活が続いていたが、ある程度のところで、うちの会社の社員は引き上げることになり、俺だけが管理会社に出向となり、仙台に残ることになった。
コンプライアンスに煩い会社。急なトラブルに備えて、帰れる日は早く帰れと急かされて、急に出来た退社後の自由な時間。それを正直持て余していた。
元々、特に趣味もない。飲みに行こうにも、親しくしている友人や知人は、まだこっちにはいなかった。
千波がいるときは、多趣味で行動的な千波に連れられて、出歩くことも多かったが、千波がいなくなってからは、遅くまで仕事して、帰って寝るだけの生活。時々、高橋や会社の奴らに誘われて飲みに出かけるだけ。でも、そんな生活が、千波がいなくなった淋しさから救ってくれたのも事実だった。
ジムにでも通い始めようかと思っていた矢先、いつものように何の予定もなく、駅から真っ直ぐ家路を辿っていた。
すると、不意に店先を掃除していた定食屋のおばさんに声を掛けられた。その女性のことを、のちに多香子さんと俺は呼ぶ事になるんだが、この多香子さんこそが、俺と太陽の今の関係を作ってくれた人だった。
「あのー、突然すみません。良かったら、食べていきません?」
定食屋の呼び込みなんて珍しいし、よっぽど客が来なくて困っているのかと思ったが、突然知らない人間に声を掛けられて、多少なりとも警戒はしていたんだと思う。
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