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困った顔をしてそう話す多香子さんは、太陽の父親が、一年程前に出張先に向かう途中、交通事故に巻き込まれて亡くなったこと。その後、父親が務めていた会社の計らいで、母親がその会社で勤め始めたこと。条件のいい正社員につけたのは良かったが、自宅から職場までが遠くて、定時で上がっても学童の迎えに間に合わないこと。それまでは、保育園だったからどうにかなっていたが、小学生になって、学童の修了時間が保育園の迎えの時間より早くなったため、困っていた母親に、それならうちで預かるよと声を掛けたと教えてくれた。
たまたま通りすがりの俺が、こんなプライベートなこと聞いていいものかと思ったが、これが昔ながらのこの辺の人達の付き合い方なのかもしれないし、どちらにしろこの場限りの付き合いだとその時は思っていたので、黙ってその話を聞いていた。
すると、多香子さんが、「ねぇ、お時間ある?良かったら、宿題見てあげてくれない。私たちも、ゆっくり一緒に座ってはあげられなくてね」なんて言い出して、俺の返事を聞くより先に太陽に、「太陽ちゃん。このおじさんが宿題みてくれるって」と太陽に声をかけていた。
小さい子供なんて相手にしたことないし、どうしたものかと思いながらも、結局は巻き込まれるのは嫌いじゃない性分で、それが分かるのか、こんな風にやや強引な性格の人が寄ってくるのかもしれない。
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