番外編ー4

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「こんにちは」と声をかけると、黙って下を向いたままの太陽。多香子さんが、「恥ずかしいのかなー」とフォローをしてくれる。 さっきの話の中で、太陽は父親を亡くしてしばらくは普通にしていたらしいが、母親まで働き始めると、だんだんと表情が暗くなっていったらしい。最近は、笑うことも少なくなって、その事を母親がとても心配していて、太陽のことも、母親のことも、多香子さんが心配で、「私が、二人の顔を見たいって思ったから、無理にここに連れておいでなんていっちゃったんだけど、なんか他の方法もあったのかもしれないね」と、自分を責めるようなことも言っていた。 自信なんてなかった。 でも、なんとなくどうにかなるかと思った。 目の前で、肩を落としている太陽に、数年前の自分を重ねた。 大切な人を失って、どうしようもない大きな穴を塞ぎきれずに、耐えられない淋しさと向き合うしかない日々。数年経っても、そう簡単に塞がるようなものではない。既に大人だった俺でも、あんなに辛かったのに、こんな小さな体で、そんな悲しみに向き合ってるのかと思うと、グッと胸を掴まれるような思いになる。 でも、俺には黙って隣にいてくれる友人がいた。 お前のペースでいいからと、泣きたいときには泣けと、何も言わないけれど、そんな姿勢で隣にいてくれるだけの存在が、どれだけ大きなものなのかは分かっていた。太陽にとってそんな存在になれるなんて思わないけど、ただ隣にいたいとその時思った。
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