番外編ー4

14/22
前へ
/381ページ
次へ
話しかけると、頷いたり、首を振って答えてはくれる太陽。でも、そんな尋問みたいな事をするのも申し訳なくて、ただぼーっと隣に座っていた。 太陽は、黙って絵本を眺めていた。 そこへおばさんが、「ほら、ご飯食べなよ」と、その日の定食を運んできてくれた。 お皿の上にてんこ盛りの唐揚げとキャベツを、俺と太陽は黙って食べた。 美味しいなと声をかけると、黙ってうんと頷く太陽。そんな時間を俺たちは過ごしていた。 たまたま、たいしたトラブルもなくて、定時に上がれる日が続いたこともあって、それから毎日のように太陽と一緒に夕食を食べた。 何を話すわけではない、同じテーブルを囲んで、同じものを食べるだけ。そして、美味しいなって声をかければ、うんと頷く太陽。そんな太陽が、だんだんと愛おしくもなり、いじらしくなっていた。 ある日、食堂に置いてあった新聞を、絵本を読んでいる太陽の横で読んでいた。スポーツ欄を見ていると、隣から覗き込んでくる太陽。じーっとプロ野球の写真を見ているので、「野球好きなの?」と聞けば、少し首を傾げて考え込んだ後に、ううんと首を横に振った。 その後も、チラチラと新聞を見てくるので、「気になるの?」と聞くと、ううんと首を振るのを繰り返していた。 そんな俺たちの様子を見ていた多香子さんが、「太陽ちゃん、キャッチボールがしたかったんだよ」と小声で教えてくれた。父親が、どっからか子供用のグローブをもらってきていて、まだ太陽には大きすぎるから、小学校に上がったら一緒にしようなと約束してたらしい。 多分、野球が好きとか嫌いとか、そんな事は本人にもわからないんだろうけど、キャッチボールに対する憧れが、大きくなってるんだろうねと、おしゃべりな多香子さんは、その日の太陽が帰った後に教えてくれた。 そして、「岩永さん、キャッチボール出来る?」と聞いてきた。
/381ページ

最初のコメントを投稿しよう!

577人が本棚に入れています
本棚に追加