番外編ー4

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懐かれている訳ではなかった。でも、多香子さんが言うには、毎日こうやって、同じテーブルを囲んで、温かいご飯を食べれるだけで、太陽にとっては意味があるという。自分の居場所があるって、子供たちにとっては安心に繋がるのよ。そういう場所が保証されてるってだけで、安全な場所が確保されてるようなものだからと。だから、今のままで、十分なのよと。 でも、それを聞いて返って怖くなってしまった。たいした事をしてる訳ではない。でも、同じことをしてもらって、それにとても助けられた経験がある。 俺は大人だから、あの時高橋が急に来れなくなっても、それは仕方がない事だと納得が出来た。それに、高橋がそうしたくてしていない事も、十分に伝わってきて分かっていた。 何より、俺と高橋には、それまでの積み上げてきた関係があって、だからこそ伝わるものもある。でも、太陽とは、そんな基盤になるものなど何もなかった。 俺が無責任に、関わってしまった事で、太陽にしなくてもいい淋しさや裏切られたような気持ちを与えるんじゃないかと思って、悩んでいた。 「考え過ぎなくてもいいんじゃないの」 多香子さんが、そんな俺の心中を察してか、優しい言葉をかけてくれた。 「こどもってね、こっちが思ってるより、以外と頭いいから、ちゃんと分かってるものなのよ。あなたが、出来る範囲でいいのよ。続けられるかなんて、心配することない。太陽ちゃんだって、一回やってみたら満足するかもしれないしね」 それでも踏ん切りのつかない俺に、「懐かしいな、久しぶりにちょっと体動かしたみようかな、くらいの軽い気持ちでいいのよ」と、背中を押してきた。 「それでいいなら…」と、俺が言い終わるより先に、ポケットからスマホを取り出した多香子さんは、太陽の母親に電話を掛けると、早速約束を取り付けていた。
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