番外編ー4

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次の日、多香子さんの店に行くと、古いグローブを、大事そうに膝に抱えて、太陽は待っていた。 もう宿題も済ませたんだよねと、多香子さんが、太陽に変わって教えてくれると、自慢げにうんと頷いた。それが、とても子どもらしくて、可愛く思えた。 いつもの感じで、会社帰りに真っ直ぐ店に寄った俺は、グローブを持ってきてなかったと、心の中で慌てた。こんな、準備万端で、宿題まで済ませて待たれてたんじゃ、ちょっと待っててなんて言える雰囲気じゃない。 「おっ、かっこいいな!ちょっと見せて」と、太陽に声を掛けると、二つ返事でうんと頷いて、グローブとその中に入ったボールを手渡してくる。 使い込んだものだけど、手入れはきちんとしてあったようで、年季が入ってる割には綺麗にしている。でも、ちょっと太陽にはまだ大きいんじゃないかと思った。中に入っていたボールは、子供用のビニル製の野球ボールで、これなら素手で大丈夫かと、一度帰る心配がないことが分かって安心した。 「つけてみる?」と聞くと、うんとこれまでになく大きく頷いた太陽。よほど嬉しいのが伝わってくる。 手を入れると、やはり少し大きいが、馴染んでいる事もあって、使えない事もない。 「いいなぁ、似合ってるよ」と褒めてやると、満更でもない様子で、嬉しそうに動かしては、自分でそれを見ている。 「そうそう、上手いよ」と褒めると、照れながらも、続ける姿が可愛らしかった。
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