番外編ー4

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取りやすいように何度投げても、どうしても取れない。俺の教え方がかなり下手だったせいもあると思う。今思えば、もう少し順序立ててやればいいものをと思うが、それは俺も初めてのことで容量を得ない。 辺りが暗くなって、ボールも見えなくなって来て、もう限界かなと思ったその時だった。最後の一球な、この球が取れなかったら帰ろう、そう言おうと思っていた。 さっきから言おう言おうと何度も思っては、太陽の真剣な顔に負けて言い出せずにいた。 でも、これ以上は無理だ。そう思った瞬間、取れた。 止まった世界。一瞬、何が起こっているか分からなかった。でも、あぁーという何度も聞いた太陽のため息もなくて、ボールはすっぽりと太陽の手の中に収まっていた。 「やったなぁ!太陽」 俺がそう声を掛けても、反応しない。固まったままの太陽は、じっと自分の手の中のボールを見つめたまま。 そして、ゆっくりと顔を上げると、今までに見せたことのないようなにっこりとした顔をこちらに見せて来た。 今日の南みたいに、じっと俺たちのことを見守っていた母親は、こっそりと涙を拭いたあとに、自慢げな我が子に微笑みかける。 それが、俺が初めてもらった太陽からの感動だった。
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