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「おいしい! これって沖縄産のコーヒーですよね?」
「うん、そう、沖縄産! えっ、それどうしてわかったの?」
「えっと……、それは……、そう感じたから……」
そうか……、普通なら、飲んだことがあるからとか、コーヒー店でバイトしたことがあるからとかなんだろうけど、彼女の場合は、そういうデータがメモリーに入っていたということか……。
初めて下を向くENAを見た。
なんだか悲しそうに見える。
だがENAはすぐに佳祐の方に振り向いて、
「だから、私、お料理は好きだし得意なのですよ」と、少し顎を突き出して、自慢げな表情を作りあげた。
ENAは自分が人間ではないということをどう思っているのだろう。
佳祐は一瞬そう思ったのだが、それよりも、これは今度ご飯を作りましょうか? の前振りなのか? 僕から「じゃあ、今度ご飯を作ってよ」というべきなのか? いや、まだ付き合ってもいないのに、それは早いよな? いやでも、もう僕の部屋にやって来ているわけだし。あぁ、どうしたらいいんだ? で、頭がいっぱいになった。
そんな佳祐をENAは、にこにこしながら見つめ、次の言葉を待っている。
「えっと……、じゃあ今度、一度、ご飯を作ってくれるかな……」
勇気を振り絞りそう言ってみたのだが「それはまた追い追いということで。えっと、じゃあ佳祐さんの好みを知りたいので、佳祐さんのイチ押しのものを食べに連れて行って下さい」
満面の笑みでそう言われてしまい。
この笑顔は間違いなく凶器だ。
これを見せられたら、誰も逆らうことなどできはしない。
そう思った。
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