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左手には小川が流れていて、右側では、今はもうほとんど見られなくなった、太陽の光をいっぱいに浴びた土の畑で、野菜が育てられている。
今、普通のスーパーで売られているものは、オートメーション化された栽培室で作られたものばかりだ。
バイクを道端に停め、二人で川べりに腰かけた。
アイモニターを外して、心地よい風を全身で感じた。
ENAも目を細めて、きらきら輝く川の流れを眺めている。
「とてもいいところですね」
「うん。子供の頃、母に連れられて、よくここにきたんだ。そこにある畑を手伝わせてもらったり、飽きると、この川で魚を捕ったりして」
「そうなのですか、子供の頃に……。今、お母様はどちらに?」
「父も母も10年前の震災で。僕はたまたま修学旅行に行っていて」
「そうだったのですか。すみません、悲しいことを思い出させてしまって……」
「いや、楽しかった思い出もいっぱいあるし。だからその……、思い出の場所に、ENAを連れてきたかったんだ」
あっ……、引かれている?
その微妙な表情は何?
思い出の場所とか、気持ち悪い……?
あっ、もしかしてENA、何を言うべきかと悩んでいるとか?
そういえば、ENAには親も、そして思い出というものもないんだよな……。
ダメだ、何とか雰囲気を変えないと……。
「えっと、じゃあ、もうすぐお昼だし、僕のイチ押しを食べようか?」
「はい! えっ、でも、ここで?」
「うん。ほらあそこ」
佳祐が指さした先には昔ながらのワンボックスカーが停まっている。
「あそこで売っているハンバーガーが最高なんだよ。ここの畑で採れた新鮮な野菜が挟まれていて」
「ああ、ハンバーガー……」というENAの手を取って、車の方に連れて行きたかったのだが、また嫌がられてしまったら、そう思うと「ほら行こうよ」と口で促すことしかできず。
「はい」と笑顔を作ったENAとその車に向かった。
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