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「自分の生活を犠牲にしたくない、その思いが強くなり、多くの国民が結婚も出産も育児も、恋愛すらもしなくなった。その根源となるSEXもだ。食欲と同じ人間の基本的な欲求である性欲がなくなることはないのだが、この映像技術が発達した日本では理想の相手とバーチャルで自己完結できるようになってしまった」
「だから、AMdを使って精子を受け渡しする、ということですね」
「そうだ。だがAMdの役割はそれだけではない」
「えっ? じゃあ他には何を?」
「子孫を残すための努力、生物として必ずしなくてはならない努力を、ないがしろにするようになってしまった日本人。その意識を根底から矯正するのだ」
「意識を矯正する……」
「そうだ、子供をつくり、その子供を愛するという基本的なことを、昔の日本人が当たり前のように持っていた美しい自己犠牲の愛を、取り戻させなければならないのだ」
「でもそれは、マインドコントロール……、ですよね」
「言葉が悪いな、私は教育だと思っている。どちらにせよ、これは日本の未来を輝かしいものにするためには必要不可欠なことなのだ」
「そう、かもしれませんね……」
裕仁は話を続けた。
「そしてその為には、AMdは人から愛されなければならない」
「室長、それは大丈夫でしょう。こんなにも完璧な美しさを持つAMdなのですから。ほら、今も佳祐がENAの横顔をずっとチラチラ見ているし」
「葵、人間とはそんなに単純なものではないのだよ」
「えっ?」
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