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「地区長!失礼いたします!」
秘書はいきなり部屋の中に入ってきた。顔色が真っ青である。
「脱獄です!」
直立不動で言った。私は全てを悟った。
「脱獄?私の地区で起こったのだね。そしてあいつも脱獄した、という事だね」
真っ青の顔が縦に揺れた。
あいつが脱獄か。少し厄介だな。
「すぐに脱獄者のリストを持ってきてくれないか」
真っ青で直立不動。口をもごもごさせている。何が言いたいのか分からない。もう一度冷静に質問をしよう。秘書はとても錯乱しているようだ。
「リストを持ってきてくれないか。すぐに対処方法を考えるから…」言っている途中に気が付いた。「…もしかすると、脱獄したのは全員なのかね?」
先ほど同様、真っ青の顔が縦に揺れた。
さすがの私も驚いた。まず大きく深呼吸をする。これは脳みそに酸素を回すため。次に目を閉じる。これは脳みそを整理するため。最後にコーヒーの香りを楽しむ。これは心を落ち着かせるため。
コンピュータを開き、カナン刑務所の囚人リストに目を通す。二百人以上いる。これが全員脱獄したのか。方法は分からないがさすがだ。さすがはシープ兄さんだ。
「主犯と思われるシープ。そして、他にこの六人の囚人を確保しろ。家族、恋人、友人、同僚、馴染みの店をすぐに調べるんだ。そして監視をするように伝えてくれ」
「その七人だけでよろしいのでしょうか」
秘書の質問はごもっともである。二百人以上の脱獄者。その対策を打たずに、私はたった七人の囚人を捕まえろと指示している。指示?いや、地区長としての命令を下したのだ。
「この七人を捕まえる理由はあとで説明する。とにかく最優先で捕まえろ」
「分かりました」
秘書はすぐに部屋から出た。それを確認した後、私は受話器を手に取った。
「シープが逃げた。カナン刑務所を中心にSS3型のサタンを落とせ。準備が出来次第すぐにだ。出来るだけ早く頼むよ」
私は受話器を置いた。
秘書に先ほど出した指示は念のためである。サタンで全てが解決する。そう。全てが。
コーヒーを口にふくむ。鼻と口の両方から香りを楽しむ。とても心地が良い。
「二百人のバカが集まっても何もできやしない。しかし、たった一人の天才がいれば何でも出来る」私は部屋の中で一人呟く。
「虹が見たかったら雨を我慢しなければいけない。すまないね。シープ兄さん」
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