第3話 カントリー

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 眠たそうな生徒たち。午後の授業、眠たいのは生徒だけでは無い。教師の私も眠たいのだ。 「はい。いま欠伸をしたブレス。この星には何人の人が住んでいますか」  ブレスは急に背筋を伸ばして目を見開く。こういう素直さが人間には大切だ。 「えっっと、六〇億人ぐらい?」 「正解。それじゃこの星の名前は?」 「ドリンだっけ?」  私は微笑んでしまった。だって彼らがこの星の名前と人口を答える事が出来たのだから。少し前まで字の読み書きも出来なかった彼らが。  子供には希望しかない。改めてそう思う。 「正解。ちゃんと勉強しているじゃないか。それでは授業を続けるぞ」  素直な生徒たち。先程までは眠たそうな顔をしていたはずなのに、今は目を見開いて聞いている。  ちゃんと聞く気はあるのだ。体が眠たいだけだ。午後の授業に昼寝を入れる事にしよう。今度、ここの地区長に相談してみようと思う。 「このドリンで一番有名な人、それはワールドワンです。この名前は聞いたことがあると思います」生徒たちは、紙の教科書を熱心に見ている。「彼はある画期的なシステムを作って有名になりました。そのシステムとは、完璧な世界です」  生徒たちがざわついた。そりゃそうだ。彼らは少し前まで人を殺す訓練を受けていたのだから。その生徒たちに完璧な世界と言ってもざわつくだけであろう。 「先生。この教科書には約二〇年前にこのシステムが発明されたと書いてあります。って事は、今は完璧な世界という事なんですか」  勉強熱心なペトロが質問をしてきた。 「なかなか難しい質問だね。ペトロの質問の答えになるかは分からないが…」私は黒板にチョークで字を書いた。指先が白く汚れた。 「そのシステムを支持する人たちが言うには、三〇〇年後に完成するらしい。つまり、三〇〇年後に完璧な世界が出来るってわけだ」自問自答するように話を続けた。「それでは昨日よりも今日の方が完璧な世界のはずだが……」 「絶対完璧じゃないし」ざわつく生徒たちの声が耳に入った。その通り。私は生徒たちに残酷な事を言ってしまったのかもしれない。 「私も今の世界が完璧だとは思わない。それだけではない。一部の反対派は、このシステム自体に欠陥があるとも言っている」
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