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「こたつ、買ってよかったわ。いままで、掃除がしにくいからって、買うの我慢してたけど。瀬奈ちゃんとよっくんが来て、風邪引いたら困るからね。よっくん、お風呂の準備ができたら、起こしてあげようか」
おばあちゃんは、急須から、とぽん、とお茶を注ぐ。
「おばあちゃん、このきんつば、一回開けた?」
きんつばは、厚さ2センチくらいの、真四角のお菓子。うす紫の和紙できちんと包まれているうちの、ひとつが糊がはがされ、開いている。
「ええ? どれどれ」
おばあちゃんは、丸縁の老眼鏡を取り出し、きんつばを受け取る。
開いてないものと見比べて、眉をしかめた。
「開いてるというか……、切れてるね」
うんうん、と私は頷く。件のきんつばの包装紙を広げると、ひとつの角が、小さな正方形を切り取ったみたいに欠けている。
「工場で包むときに、切れちゃったのかなあ」
遠足で、パン工場を見学したことがある。大きな機械で、ビニールの袋をカットしていた。ちょっとずれたりしたら、切れてしまうこともあるんじゃないかと思った。
「ちょっと温めようか」
仏壇のある和室は、北向きで寒い。きんつばは、すっかり冷たくなっている。
おばあちゃんがコンロで表面をあぶると、湿気が飛んで、薄皮がちょっとパリっとして香ばしくなった。二つに割ると、大きな粒の小豆が、宝石のようにきらめいて現れる。頬ばると、さっぱりとした甘さ。
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