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◇
私とおばあちゃんがお風呂からあがっても、芳樹はぐっすり眠りこけていた。
居間のとなりの和室に布団を敷き、ゆでた蒟蒻のような芳樹を、おばあちゃんとふたりで苦労しながら運んだ。
私たちも
「おやすみ」
と横になる。
明け方、誰かの話し声が聞こえた気がして、目が覚めた。
声は、こんな風に聞こえた。
『ござらんなあ』
ねぼけて、お父さんが来たのかと思ったけれど、目を開けて耳をすましても、もう何も聞こえない。
夢だったか、と居間の方へ寝返りを打つ。
芳樹の頭ごしに、こたつの周りを、何か白いものがよぎるのが見えた。
ネズミ?
よく見ようと体を起こす。
清冽な寒さに、肩をきゅっとすぼめながら、そっと居間へ這っていった。
和箪笥とラタン製の花瓶用の台がある。花瓶台の足の隙間に何かが入っていくように見えたのだ。
絨毯に顔をつけ、足の隙間を覗く。
何かの息遣いが感じられ、すぐに消えた。
手が届きそうな場所に、小さな箱のようなものがある。
不思議と手が伸びた。指は入るけれど、掌の厚みがひっかかる。
膝をついたまま、猫のようにそっと和室に戻る。
「よっくん。よっくん」
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