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◇
おばあちゃんに、今朝のことは内緒にしたまま、出かける時間になった。バスを教えてもらって、お母さんの病院へ向かうのだ。芳樹はお金を持って出かけること自体が初めて。少し緊張して、
「次?」
降りないバス停で、何度も停車ボタンに手をかける。
病院に着くと、きょろきょろしながら走りだすし、私は常にひやひやだ。
お母さんの病室は7階。部屋の番号を確かめて、ドアを開ける。
「こんにちはあっ!」
こらこら。
眠っている人もいるから、大声は厳禁なのに。
「こんにちは」
一番手前のベッドに寝ていた、人の良さそうなおじさんが、笑って会釈してくれた。
『すみません』
私と同時にお母さんの声が言った。
病院のものなのか、見慣れないベージュのパジャマを着ている。
「お見舞い来たよ。ごはん、美味しくないの?」
「うん、超まずい。早く帰りたい」
「昨日、よっくん、こたつで寝ちゃったんだよ」
「ええっ、風邪ひかないでよ」
病人に言われたくはない。
「こたつ、気持ちいいよ。うちは買わないの」
「瀬奈ー、それより手術の心配してよ」
お母さんは苦笑いしている。
「お腹の中でやるんでしょ」
内視鏡を使って、あまり切らずに済むと聞いた。
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