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葬送~空弔い~
がらり、と襖を開けた。そこには疲れた顔をした中年の男と、それに寄り添う女がいた。
「ああ、叔父さん、もうそんな時間ですか」
「うん、代わるから二人は早く寝なよ」
扉の開く音に顔を上げた甥は眠そうな目を擦りながら言った。隣にいる彼の妻は、しゃきっとしたもので、そんな彼を呆れたように見ている。普段彼が妻の尻に敷かれているのは容易に想像が付いた。
「叔父さんしんどくないですか、大丈夫ですか?」
「僕はさっきまで仮眠とってたから」
二人に近づき、その向こう側にある棺の中を覗き込む。
柩の中では、穏やかな顔をした兄が指を組み、静かに横たわっていた。目元には横に走る笑い皺。年を重ねたことで刻まれたそれは、彼の人格を物語る。
「綺麗な顔してますよね」
「そうだよね、いい顔してる」
そう返すと甥は、眉を下げて困ったような、切ないようななんとも言い難い複雑な顔をした。
「なんていうか、昔にもどったような気がします」
「昔?」
「その、父がボケる前と言うか……まさかあの父がボケるとは思わなくて」
ああ、と頷く。正直、自分も予想外だった。
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