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自由気ままに、自分勝手に生きた分、兄にありとあらゆる責任と役目を押し付けた。その重さを省みることもないほどに彼は一つ、一つと自分の投げ捨てたものを拾って歩いた。自分が父ではなく母について行っていれば、彼は女手一つで子育てをする彼女に楽をさせようといい子になることはなかったかもしれない。自分が堅実な仕事につこうとしていれば、彼はずっとドラムを叩いていたかもしれない。自分が結婚して普通の家庭を築くような人間なら、彼は普通の家庭で普通の幸せを築こうとすることはなかったかもしれない。
愚問であることは分かっていた。だから、一度も聞いたことはない。それが彼自身の選択で、何一つ迷いがないことが分かっていたし、それを告げるのは彼の生き方を否定することにしかならないからだ。
だから、自分は一度もそれを感謝したこともなければ、引け目に思ったこともなった。そんな自分に罪悪感を持つことは、彼に対する裏切りだ。それでも、彼は羨ましくはなかったのだろうか、こんな自分が。
「大好きだよ。妬けるかどうかで言えば、勿論羨ましいけど、でも嬉しい方が大きいなぁ、だって自慢の弟だ」
にこにこと語る彼が眩しく、年のせいか目頭が熱くなる。この人は、どうして。
「兄さん」
一度もそんな風に呼んだことはなかった。小さい頃から、年の差など関係ないと言わんばかりに大ちゃん、大ちゃんと呼んでいたし、兄もそれを容認していた。
「え?」
どうしたの、という顔をされる。
「……いいや……僕は……貴方みたいなお兄さんなら、その天ちゃんもきっと貴方が大好きだと、そう思うよ」
貴方が好きだとは、言えなかった。
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