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「天ちゃんはドライで態度はでかいけど、なんだかんだ言って優しいし、俺のこと好きでいてくれてるんだよなぁ、それがまた可愛いし、嬉しいんだよ」
「それだけ愛されてたら、そりゃ好きにもなるさ」
ずっと、兄のことは尊敬していたし、愛していた。ずっと、愛されていると分かっていた。自分からの感情を直接的に伝えたことなどなかったが、兄はきちんと分かっていた。それが、何より嬉しかった。
そして、反対に、愛しているからこそいっそ恨んで欲しかった。当たって欲しかった。罵ればいいと思った。少しでも彼の背負った荷物が減るのなら。幸せになるのなら。しかし彼は、それすらもできないのだ。
そんな彼が、憐れで、哀しく、愛おしい。
だからこそ過ごした時を忘れたとしても、彼の中に自分はあり、自分の中に彼はいる。なら、それだけでも十分だというもの。彼が自分を認識しなくなったとしても、全てがなくなるわけではない。
「僕は、別に忘れられても気にしなかったからなあ」
ボソリ、と口に出す。
「悲しくなかったんですか」
甥の嫁の、硬い声。悲しくなかった、とは答えなかった。隈に縁どられた目には、わずかに軽蔑が滲んでいる。
「おい、お前」
甥が制止の声をかける。ぼんやりしているようで、流石に兄の息子だ、見るところは見ている。彼は子どもの育て方もまた。
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