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「怖かったの......。ヒロとの関係が壊れてしまうのが怖くて、だけど諦めることも出来なくて......」
励まして、支えてくれた人がいる。
背中を押してくれた人、傷つけてしまった人がいる。
そんな人たちのおかげで、わたしはここまで来ることが出来たの。
「他の誰かじゃダメなの......、ヒロだけなの......」
言葉と一緒に溢れ出す感情が涙に変わって零れ落ちる。
ヒロの声は聞こえない。
拭っても拭っても涙は止まってくれない。
泣いていては、表情を見ることも出来ない。
ヒロ、今、どんな顔してるの?
わたしの気持ち、ちゃんと伝わってるのかな。
そう思っていたら、次の瞬間。
涙を拭うわたしの手をヒロの手が掴んで。
そのままヒロの胸に引き寄せられる。
懐かしい匂いがわたしの身体を包み込んだ。
そして。
「サク......」
耳元で囁かれる甘い声。
そっと目を閉じた時、うるさく鳴り響いていた胸の鼓動が自分のではないと気付いた。
顔を上げると、驚くほど優しい目をしたヒロの顔が近づいて、そのまま額と額が触れる。
「俺も、ずっと......ずっと前から......おかしくなりそうなくらい、サクのことが好きだ」
ヒロの声が震えていた。
その声を聞いて、また涙が溢れた。
自惚れてしまってもいいのだろうか。
この恋を諦めなくてもいいのだろうか。
言葉が出なかった。
代わりに、ヒロの背中に手を回してぎゅうっと抱きしめてみた。
そしたら今度はヒロの手がわたしの頭を引き寄せて、さらに強く抱きしめた。
ヒロの唇が耳に触れてキスをする。
そのくすぐったさに笑って身をよじらせると、少しだけ身体が離れてしまった。
けれどヒロの手によってすぐにその距離が埋められる。
例えようのない幸福感で心が満たされる。
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