課長side。

10/13
前へ
/190ページ
次へ
頼むから大人しくしててくれ。 話が出来ないから……。 「あ、あぁすみません。こら、爽太。 大人しくして、こっちに来なさい!」 奥さんが慌てて叱ると爽太君は、 ピタッと動きが止まった。 おぉ、さすが母親。効果てきめんだ! 『ママ~』 爽太君は、嬉しそうに母親の元に駆け寄って行く。 俺は、それを見ながら切なくなった。 そうだよな…まだ5歳だもんな。 いっぱい甘えたかったよな。それなのに……。 「爽太…」 切なそうに我が子の名を呼び触ろうとする。 だが、幽霊なので触れる事も出来ない。 スルッと手が抜けるとショックで涙を流していた。 「ごめんね…ママのせいで…」 泣きながら必死に爽太君に謝った。 するとさっきまで明るかった爽太君は、 泣き出してしまう。 『ママ…泣かないで……。僕が悪いんだから ひっく……だから…泣かないで』 小さな男の子が謝る姿は、余計に可哀想だった。 心を痛めている……。 大好きなママを泣かしてしまったから。 何とかしてあげたい。でもそれは、出来ない事なんだ。 人の寿命は、変える事は出来ない。 例えいくら願ったとしても。 「人には、寿命が決まっています。 短い人から長い人まで……爽太君は、すでに 寿命が決まっていたのです。そして その命は、天に昇り新しい生命として また新たに生まれ変わる。だからあなたのせいではない」 俺が唯一出来ることは、伝える事と 成仏させることだけ。 辛くてもまっとうしないといけない。 「でも、車さえ引かれなかったら 少しでも長く生きられたかも知れないわ」
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2684人が本棚に入れています
本棚に追加