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《海里》
私は四年制の大学を出て、今年の春、念願の自衛官になることができました。
学生時代に、予備自衛官補の資格を取り、霊滅師としての修行を重ねていたことを評価して頂けたのか、理由は定かではありませんが、嬉しい限りです。何事も成せば成るものだと、少し、言える気がします。
少し、と表現したのは、私がまだ訓練生の身だからです。今後も修練に励み、徐々に自信へと変えていけば、しっかりと言い切れるようになるのだろうと考えています。
明日は、同期と一緒に山の神殿に篭もり、朝から次の朝まで、『霊滅師』としての訓練に入ります。
怨霊を払うための詠唱を、二十四時間、眠る事なく行うのです。
怨霊とは、人間の弱った心に引き寄せられ、その人間に取り憑いて、悪影響を及ぼすもの。
怨霊は人に憑くと、その人から生気と呼ばれるエネルギーを吸い取ってしまいます。
その人の現在や将来の活動力に関わる、重要なエネルギーです。
それを吸い取られた人間は、考え方が悲観的になり、悪運にも見舞われ易くなります。
前期と後期の訓練課程を修了した後、私が所属することになっている『対霊作戦群』は、自衛官に憑いた怨霊を払う役目を担います。私の祖父が元々、霊滅師と呼ばれる、怨霊を払う力を秘めた人だったこともあり、私はその力を受け継いでいたのです。
街を歩けば、一〇人に一人は、誰かを引き連れています。
力を使えば紅く俄かに発光するこの眼が、見抜くのです。
一般に、霊と呼ばれる存在は憑いても害が無く、むしろ良いこともあるので、こちらからは何もしないのですが、稀に害を及ぼす霊が居ます。それが『怨霊』です。
私の使命は、人に憑いた怨霊を払うこと。
割合的には、一〇〇〇人に一人居るかどうかといった所です。
一般の方の怨霊を払うのも、第二期『対霊作戦群』たる私の任務です。
『彼』は恐らく、過去から続く苦難の数々で心をズタズタにされ、疲弊し切っているのでしょう。
私のこれまでの経験上、一番多い数の怨霊に憑かれていました。
『彼』というのは、私がコミックマーケットというイベントにコスプレイヤーとして参加させて頂いている今、群衆の中に紛れているマスク姿の人を指します。
その姿を視認した私は、覚悟を決めました。
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