《海里》

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 彼の背後には、武者や老婆、若い女性、子供、中年の男性といった、老若男女の怨霊が、見えるだけでも一〇人おりました。  ですが、私はその一〇人の他にも、何か大きな存在が彼の中に潜んでいるような、居心地の悪い圧迫感を覚えました。  私を応援してくれる方々や、ファンの方々が周りにいらっしゃる状況でその時が訪れたのには、正直焦りましたが、敵はこちらの都合など構う筈もないのですから、ここで動じずに対処するのが自衛官の務め。  まだまだ甘いと、私は自分を叱咤する思いでした。  ポーズを変える際の自然な動きに合わせて、歩哨のようにゆっくりと視線を流し、時折、彼の位置を見て捕捉しつつ、彼がこちらに近づいてくれることを祈っていましたら、どうやら怨霊たちの方が、私が放つ『気』に惹かれた様子で、彼の足をこちらへと誘っていました。  得体の知れない『大きな存在』は、恐らく、明確な敵意を持っています。  宿主である彼を暴徒化させて、私を襲いかねません。  私の任務の事だけを考えれば、襲いかかってくれた方が、近接格闘(C・Q・C)で捻じ伏せ、手早く怨霊処理が出来ますが、決してそんな事はしません。  もしそうなれば、彼は大衆の目によって、私に対して犯罪行為を犯したと思われ、その人生に多大な悪影響が出てしまうでしょう。  私は、彼を、救うのです。  そうして思考に駆られた私は迂闊にも、長いこと彼を見つめてしまいました。  すると、彼自身も私に目を留めた後、何か考え込むように視線を落としました。  私は何気ない動作の中で呼吸を整えつつ、細心の注意を払って、『術』を放つ準備をしました。  玩具のナイフと懐中時計を二メートルほど離れた地面へ放り、腹筋を意識し、重心を中央へ置きます。  撮影の皆さんの中を縫っていた彼が、突如立ち止まりました。  その瞬間、私はコスプレイヤーではなく、一自衛官としてその場に立ちました。  足を肩幅に開き、刀印を結び、彼と相対します。  そして、私は『術』を放ちました。    
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