《海里》

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 私の術は、怨霊に私の気をぶつけることによって宿主から遠ざけるというもの。加減を誤れば、宿主の気にも影響を与え、昏倒させ兼ねない、暴力的なものです。  術を放つ際にどうしても、瞳の色が紅くなるのが、小さい子供をよく恐がらせてしまうためにコンプレックスだったりするのですが、状況中は気にしている余裕などありません。  全身全霊で挑まなければ、反撃に遭うこともざらです。  今回は、どうやら、九割上手くいきました。  怨霊たちは、ある者は昇天し、ある者は逃げていきました。  もう、彼は大丈夫。  悲観や絶望といった、マイナスの思考は次第に薄れ、快方に向かうでしょう。  私は彼に向かって小さく微笑むと、コスプレイヤーに戻りました。  私の一連の挙動を、周囲の方々は演出か何かと思ってくれていたようで、幸いでした。  ――ですが。  私はどうやら、反撃に遭っていたようです。  彼自身から飛び出した生霊を、もらってしまったのです。生霊にも善いものと悪いものがあり、今回の彼の霊は、後者でした。  胸の辺りに、強い圧迫感が生じ、思わず顔を顰めそうになるのを笑顔の仮面で隠し、更に一分ほど、撮影を続けます。  ふと彼が居たほうを見ると、彼がこちらを睨んでいるのが目に入りました。  彼の恨み、辛みが、今は体内、そして脳内を駆け巡り、痛みを伴って伝わります。  私は、こちらに背を向けた彼にそっと一礼し、皆様にも一礼すると、撮影に備えて持参した数点の荷物をまとめ、更衣室へ移動しました。 「くそッ!」  普段私が使うことのない、汚い言葉が、彼の念と共に滲みます。  喘息の発作を起こしたように激しく咳き込み、呼吸が苦しい中、どうにか私服に着替えた私は、そこで、吐血しました。 「くっ!」  小さな更衣室のカーテンの裏で四つん這いになり、汗を拭くために持参したウェットティッシュやタオルで床の血を拭いていると、 「海里(かいり)? 大丈夫?」  カーテンの外から、女の子が私の名を呼びました。  私と一緒にコスプレを楽しみに来た友人でした。  心配を掛けてしまったことを詫びようとした私でしたが、 「お前のような人間に興味は無い! 失せろ!」  と、暴言を吐いてしまいました。  はっと口をつぐんだ瞬間、押さえた掌が赤く染まりました。
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