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「……一体どうしたの? 海里?」
暴言を浴びても尚、友人はそこに居てくれました。
私はぎゅっと目を瞑り、胸を押さえながら、
「ごめん、ね。体調が悪いから、帰らせて」
どうにか、普段の自分の声で応答します。
彼の生霊は、想像を絶するほどに強大でした。
彼の思いの強さが、私の命を追い詰めていくような気がしました。
私は、自分に憑いた霊の力が大き過ぎると、自分で払うことができないため、急いで駐屯地の神殿に行き、同期と先輩の助けを借りて、払う必要がありました。
「わたし、手伝うよ!」
「だめ! 開けないで! 逃げて!」
いつも優しい、私の友人が、カーテンを半ばまで開いたのがわかり、そう叫びました。
「……なにそれ?」
床の染みを、見られてしまったようです。
「ち、ちょっと待ってて! 助けを呼んでくる!」
ただならぬ空気を前に、友人はそう言って、駆け出していきました。
霊は波長が合った人間に憑きます。磁石のように、吸い寄せられます。
今は私の中に居ますが、側に、私よりも波長の合う人間が来れば、そちらに移って、今度はその人が苦しめられてしまいます。
助けを呼びに行った友人が戻る前にここを抜け出し、駐屯地を目指さなければ。
残留組に、携帯で事前連絡も入れなければ。
私は壁に手をついて立ち上がり、歩き始めるための気力を整えるべく、刀印を構え、九字を斬ろうとしました。
「悪魔降伏、怨敵退散――」
しかし、呪文を詠唱する途中で、激しい咳に襲われ、なかなか上手く進みません。
「悪魔降伏、怨敵退散、七難連滅、七復、く、くふ、ふはははははっ!!」
突如、自分の声帯から発せられているとは思えないほどにおぞましく、低い声で、私は笑い声を上げました。
「無駄だ、女。俺が斯様な事を許すとでも思うのか?」
勝手に口が動き、何者かが、私の声で話し始めました。
私はここで、勘違いをしていたことに気付きました。
私に憑いてきたのは、彼の生霊に取り憑いた、『鬼』だったのです。
「お前のおかげで、あの男の封印から出でたのだ。せっかくの自由を邪魔立てするのは許さぬ」
私の左腕が、意図せずに動きました。鬼が、動かしているのでしょう。
私のバッグを物色し、中から小さなハサミを取り出しました。
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