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彼女は右手の刀印を、胸の前に構えた。
コスプレ衣装のメイド服でその構えはどこかお門違いな気もするが、彼女が突如放ち始めた鬼気とした雰囲気に一帯が包み込まれ、シャッターの音が止まらない。
そして。
彼女は閉じていた目を、ゆっくりと開いた。
「!?」
俺はその目を見た途端、僅かにたじろいだ。
彼女の瞳が、紅く染まっていたのだ。
その怪しい輝きを秘めた双眸で、またしても、こちらを見つめてくる。
だが、不思議なことに、周囲の人間は、彼女の目の変化に何ら反応を示さない。
恰もそれが当然であるかのように、シャッターを切り続けている。
彼女がカラーコンタクトを仕込む場面を、俺が見落としたというのだろうか。
「……」
彼女は顎を引き、鋭い眼差しで、こちらを睨みつけてきた。
何か不審なものでも見つけたのかと、俺は周囲を見回して見るが、何も見当たらない。
そんなに、俺の存在が醜いか。
いいだろう。
マスクで表を隠した人間の顔がそんなに見たいのなら、見せてやる。
お前の華々しい自己満足に、汚物を紛れ込ませてやろう。
偶然が重なっただけ、という現実視は敢えて隅に置き、俺はマスクを取り払った。
俺の顔は、醜い。そこまで気に病むほどではないと知人は言うが、気休めにしか聞こえないほどに、俺は自分の顔が嫌いなのだ。見られたくないのだ。だから、マスクをする。
俺の顔は馬面である。昔から歯並びが悪く、年を負うごとに口の締りが緩くなり、下顎がたるんでいるかのように情けなくせり出してしゃくれているのだ。故に、下顎がかなり長く見え、高校時代は『モアイ』という影のあだ名が付けられ、笑いものになっていた。
それがトラウマになって、尾を引いて、『マスクを装着しないとまともに外を歩けない』という今に至ったとするなら、それも理由の一つかもしれない。
だが、正確にはそうじゃない。俺は自分からマスクを手に取ることで、どうにもならない、陰の復讐をしているのだ。俺をこうしたのは、俺を貶したお前たちだと、心の闇で嘲笑しているのだ。
俺は以前、ネット動画上で活動する歌い手になることを夢見て、それを生きる目標とした時期があった。
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