《靖治》

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 目標が叶わなくても、努力を全否定されても、どんなにみっともなくても、五体満足で食っていけるだけマシだと思うべきなのか。俺はそこまでで、立ち止まらなければいけないのか。  五体満足ではなかったり、身体に障害を持ったりしている人々は、どんな心持で日々を生きるのか。  常に、好きなように努力し、見合った達成感が供給される勝者共に、その生き様と、心の在り方を、知らしめてやってほしい。  結果がどうであれ、自分がやりたいように、自由に努力ができるということがどれだけ恵まれたものか、知らしめてやって欲しい。  然程不利な状況でもなく、かといって何の達成感も味わえず、ただ地味に怯え、苦労し、報われない日々を送る俺は、弱い。  強みが、まるで無い。  俺はまさに、敗者だ。  自分のために抱くべき信念は、うだるような暑さと重い足取りに気を取られて、まだ見つけられそうにない。  歩きながら、俺はマスクを掛け直した。
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