ショパンと調律

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「自由に弾きたいんだったらジャズを教えてやればいいだろう」  そう提案してくれたのは二階へ上がって来たマスターだった。 「僕、ジャズなんて弾いたことない」  閉店準備をしていたマスターからほんのりコーヒーの匂いが漂った。 「弾けるかどうかなんて問題じゃない。君の魂の音を鳴らせばいいのさ」  マスターはたくさんのレコードが並んだ棚から一枚を取り出し僕に差し出した。 Moanin’と書かれた表紙に黒人のアメリカ人がにっかりと笑みを向けた写真が荒く写っていた。 クラシック以外触れたこともないジャンルで僕は戸惑ったが、どこかワクワクしていた。 「来月のクリスマスイヴにこの店でジャズセッションやるから多衣良がピアノ演奏したらいいよ」 「ええ!」  思わず二人の声が揃う。 ワクワクが一気に不安に染まる。 「曲の構成から段取りまでは隼人、君にお願いしようかな」 「えぇぇ!?」  また二人の声が揃う。 「隼人さんと一緒ならやってみます!」 「おいおいマスターちょっと待ってくれよ」  しぶる隼人さんを笑いながら宥めているマスター。どうやら決定事項らしい、するとマスターは隠れて僕にウィンクをした。 マスターはいつも僕の気持ちを汲み取ってくれる不思議な力を持っていた。  こうしてマスターの一言でクリスマスジャズセッションの準備が始まった。 マスターの思惑通りなのか僕は隼人さんとジャズを通して繋がる事が出来たのだ。
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