ペルソナの能力

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「二年前くらいにね、僕の腰痛が随分悪化しちゃってね。タイミングよくアルバイトに来た二十歳くらいの女の子が居たんだ。対して忙しい店じゃないけど、潰したくもなくてね。安い時給なのによく働いてくれる子だったよ」  僕は仕事の合間にマスターがよく腰を叩くのを思い出した。 「他のところで働いても構わないよってその子言うとね「他では雇ってもらえないから、働けるだけで十分です」って言われてね。聞くと本名はカミーラというフィリピン国籍の子だったみたいで、日本では色々苦労するんだね」 「それは、僕にもわかります」  ドイツ人と日本人の血が混じっているだけで、ドイツにいても日本にいても色眼鏡で見られる。 マスターは僕の背中をポンと叩いた。 シワの深い瞼の奥に灰色がかった茶色の瞳が優しく僕を見つめている。 マスターも同じ経験を持っていることを僕は何となく察していた。 「僕にも娘がいるから可愛くなっちゃってねぇ。隼人もその頃からウチの店に通うようになってくれて日本語がまだ上手じゃないカミーラにカウンター越しによく勉強相手になってくれたよ」  アジア人独特の黒い肌、黒い髪。細く伸びた手足に大きな黒目をした女の子で、ありがとうという時に両の手をちゃんと合わせる子だった。  家庭教師と言っていた隼人さんを思い出し、僕は二人の姿を想像した。勉強なら僕にも教えてくれるのかなと少しモヤモヤした気持ちになる。 「カミーラが働き始めて半年過ぎる頃からかな、レジのお金が合わなくなり始めたのは」 「えっ?」  マスターが俯くと彫りの深い額が影になり、顔を二重に曇られた。
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