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「普通、こんな大音量でイヤフォンしてたらうるさくて眠れないよ」
シャカシャカ騒ぐイヤフォンを見せて僕は笑って見せたけど、手が震えているのが自分でもわかる。顔も多分引き攣っているだろう。
隼人さんは一瞬こちらを見たが、まだ気持ち悪いのか、胸元に手をやり小さく唾を飲み込んで深呼吸した。
「うるさいんだ、世の中の音が。人の声が。耳を澄ませば澄ますほど、どこまでも聞こえてきそうで怖い。だから俺は大切な人を近くに置きたくない」
丸くなった背中が小さな子供のように見えた。
か細い声が今にも消えてしいそうなくらい弱々しく鳴いた。
震えた背中に、僕は思わず腕を回した。
ゆっくり力を入れると隼人さんの力んだ肩や背中が僕に身を任せてくれるのを感じた。
本当に子供みたいだ。僕は子供をあやすみたいに背中をさする。
母さんがよくしてくれた事だ。
「Gute Nacht Hayato, habe einen schonen Traum(おやすみ隼人、良い夢を)」
額と首元に優しくキスをする。
言語は不思議だ。日本語だと言えない事が言語を変えるとすんなり言えるようになる。
伝えたい事が伝えやすくなる。
隼人さんは不思議なくらい大人しかった。
寝ぼけているのだろうか。抱きしめられるまま僕の右肩に頭を預けてカーテンの無い窓の外を見つめている。
どうしてこんな苦しんでいるんだろう。
この人にはいつも何が聞こえてくるのだろう。
考えても自分には分からない恐怖に僕はなんだか怖くなって隼人さんを少しだけ強く抱きしめた。
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