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「子供の頃にさ……」
急に隼人さんが言葉を発して深夜の部屋にやたら大きく響いた。
「は、はい」
「俺が小学生の頃にこの異常な可聴音域に気づいたんだよ。夜な夜な母親の喘ぎ声が聞こえるから心配になって聞いてみたり、兄貴の成績とか大人同士の些細なやりとりまで俺が把握しているもんだから初めはすげぇ怒られたけど、そのうち大きな大学病院で検査して過剰な可聴音域障害だって知ったんだ」
隼人さんの低い声がそのまま右の鎖骨に響いてくる。
「子供の頃は確かに大変だったわ、教えてない内緒話は俺に丸聞こえだし、学校で起きている会議だの先生らの話も筒抜けなわけだし。しょっちゅう理不尽に怒られたり、喧嘩したりしてたな。問題は大人になり始めてからかな。自分が異常なんだと、はっきり認識し始めた頃には誰ともつるまなくなっていった。なるべく一人でいようとした」
「どうして?」
「もう、雑音みたいに音は入ってくるから気に留めたりしなかったけど、その中に自分の名前が入ってくるとどうしても聞こえちまうんだよな。仲良かった奴とか、好きなった女が陰では自分をどういう風に見ていて、どんな風に周りに話しているか聞こえちまう。それを知らないふりして生活するのは思春期の自分には結構きつかったな」
「友達や好きな人にはそのことを打ち明けなかったんですか?」
「話そうと思ったことはあったけど、結局言えなかった」
「どうして?」
少し沈黙をして、隼人さんはまた話し始めた。
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