大嫌いなバレンタイン

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「お返しなんてしなくてもいいんじゃないの? 別にあんたに本命とかがいるわけでもないんだから、母さんは作らなくてもいいと思ってるけどね」  数年前にそんな事を漏らしたら、母はそう言って笑った。  簡単に言ってくれるが、来年もくれるよね、的な事を言ってくる女友達にあげる分は作らなくてはいけないだろう。忘れたと言い訳したところで、同じ学校に通っていれば何回も声を掛けられる羽目だ。だったら適当に、と言うと聞こえは悪いが、チョコレートを溶かして固めるでもクッキーを焼くでもして、その場を凌いだ方が手っ取り早い。そんな説明はしなかったが、その後、母に愚痴る事はしていない。時間の無駄だし、代わりに手を動かす事にしたのだ。  では、大量のお返しを作るのが面倒なのかと問われれば、別にそこは苦ではない。がさつだなんだと評されやすい私ではあるが、料理やお菓子作りは結構好きなのだ。毎年クラスの半数分、すなわち女子全員分くらいは当たり前のように作るし、その他にも仲が良い友達やお世話になっている先生、近所のおじ様方にも作ったりしている。友チョコに始まり、世話チョコ?というものが殆どで、後は家族に贈る分しか作らない。本命は、作っていない。  そろそろ総数が百を超えそうだが、ラッピングも手を抜かない。手を抜いては相手に失礼だと思っているのだが、その事を言うと、上の方の妹には失笑された。何年前かに本命には箱に詰めて送り、義理の相手にはサランラップで寄越した妹だ、私とは感覚が違うのだろう。どちらかと言えば下の方の妹は私の意見に近いので、手が空くと味見を交渉材料にして手伝ってくれる。それもあって、ラッピングだって財布の事は頭が痛いが、辛い事ではない。  後々の苦労はあるものの食べられないわけではないし、お菓子を作る事も、大量のラッピング作業も苦ではない。だからこれらは、バレンタインが嫌いな原因にはなり得ない。
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