大嫌いなバレンタイン

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 だったら何がこのイベントを嫌う原因なのかと言われれば、そう、母の言った事が実は間違っていて、私には本命がいるという事で。距離が遠すぎる上に母に言っていないから贈る事ができない事が原因なのだ。端的に言ってしまえば、嫉妬なのかもしれない。みんなは本命に渡せるのはどうして私は、とかそんな感じの、幼稚で単純な嫉妬。多分イベントに対する、八つ当たりなのだ。  それが巡り巡って大量のお菓子作りに繋がっているのではないかと考えると、それこそ失笑ものだけれど。本命に渡せない分、友人や先生方に渡すものに本気になれる、なんて事は多分本来は持ち得ない感覚だろう。  そんな事を考えながら電車に揺られ、学校へと近づいていく。胃のあたりが重たくなりそうだが、ここ数年毎年の事なので、ため息を吐き出してやり過ごす。誰か友人でも乗ってきて、話し相手になってくれれば多少気が紛れるのだが、なんて思っていると、学校の隣駅から友人が乗り込んできた。  いつも遅刻ギリギリの彼女が珍しいな、と思いながらも声を掛ける。すると彼女はパッと表情を明るくして、動き出した電車の中で私の手を握った。 「おはよう、カズちゃん。今年も楽しみにしてるね~」  なんの事かすぐに察する。バレンタインの事だろう。つまりはまぁ、私も浮足立っている連中の一員になってしまう、いや、話し掛けられた時点でもうなっているわけで。あまり良い気はしないし、胃は重たくなる一方だけど、できる限りの笑顔を作る。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加