大嫌いなバレンタイン

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「あぁ、うん、今年はクッキーかマドレーヌにでもしようかなって。型が見つかったんだよね、台所の奥の方から」  まだ一月の電車の中でそう返した事に、別に反省は要らないだろうししない。それに実際、きっと今年も例年通りのお菓子工場に我が家がなるのは間違いないだろう。私がマドレーヌを作り、妹達も思い思いにクッキーやプリンや、定番のチョコレートを作るだろうから。 「おっ、マドレーヌかぁ、いいね」  少し食い意地の張っている彼女がそれを思い浮かべたのか破顔して、電車の中でお腹を鳴らした。気が早すぎるが、そこそこ評判の良い私のお菓子だし、その事に悪い気はしない。  本命に渡せないバレンタインなんて大嫌いだが、彼女の笑顔に免じて、今年も頑張ってお菓子を作ろうと思った。  数年後、私は実家から遠く離れた地に就職し、無事に本命に作ったものを渡す事になるのだが、これはバレンタインが大嫌いな私の話なので、別のお話という事にしておこう。
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