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「ひな、さま……」
「ひな、そのアンドロイドを捨てろだなんて言うつもりはないよ。だって、大切なんだろう……?」
ひなが迷っているように背中で動く。
「俺の家族はきみのことを反対しない。ひとと話せなくったって俺は気にしないし、だからひな」
これ以上は聞けないと思ったのだろうか。
震えているひなが背中から出てきて、首を横に振った。
「なん、で、なんで、ひな……」
「……っ、――、…………」
帰ってと、そう言っているのだろう。それを悟ったらしい男性がぐっと奥歯を食い縛り、悲しそうな表情を浮かべた。
するとひなにもう行こうと手を引かれ、響は呆気に取られてしまう。
「ひな! 俺は……っ!」
バタン、と、ひなが扉を閉めた。
きっといまごろあの男性は玄関に立ち尽くしているんだろうと考えながら響はひなを見つめ、ぼろぼろと瞳から雫を落とす姿に見入った。
――人間ノ涙ハ美シイナ。僕ニハナイモノダカラ、ソウ思ウノダロウカ。
「……なの、私、彼のことが好きなの。でも、こんな私じゃ、彼に迷惑をかけてしまうから」
好きというのは相手に好感をもっているということで、自分とは違い繁殖能力のある生物は子孫を残すためにそういった相手と一緒になるとデータにあるのに、不思議でならない。
これが複雑な感情というものかと響は目を伏せ、早くその感情を理解しないとと焦りを抱いた。
それと、もう一つ。
――ヒナサマハアノ人間ト会話デキナカッタノニ、僕トハデキルノカ。
胸のあたりに広がるなにか。
それが優越感であると、響には知る由もない。
「ひとと話せないなんて、彼の仕事の邪魔になってしまうもの。彼が私のせいで大変な思いをするだなんて、そんなの堪えられないわ」
「……ひな、さま」
「望まない、望まないわ。私は、響がそばにいてくれればそれでいいの。大好きな響がそばにいてくれれば、それでいいの……っ」
――ネエヒナサマ、ソノ好キハ、アノ男ノヒトト同ジ好キ……?
泣き続けるひなを抱き締めた響は、鋭利な刃物で身体を刺されるかのような痛みに困惑した。
やはりこれは故障しているんだ。隠し通さないと、隠し通さないと。
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