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響は記憶媒体にアクセスし、前の主人のことを思いだす。
初めはよかった。そう、初めはよかったのだ。
真新しいものに喜んだのかなんなのか響にはよくわからないが、弾ける笑顔を見せずっと家族よといってくれた元主人。
大切に大切に自分を扱いつねにそばに置いてくれていたその少女は、いつしか自分に対してだけ笑顔を見せることがなくなり、物を投げつけたり罵倒するようになって、響は散々な扱いを受けるようになった。
――役立タズノ僕ハキット、マタ……。
アンドロイドである響には、どんな扱いを受けようとも人間を恨んでは、羨ましがってはいけないというプログラムが組み込まれている。
だから自分は役立たずであったから怒られ捨てられてしまったんだと思い、またそうなるのではないかと不安から睫毛を揺らした。
「あ……、ふふっ、響って表情をなくしていたわけではないのね」
「……?」
ペタペタ。自分の顔に触れ確認するも、彼女の言っていることがわからず響はきょとんと彼女を凝視する。
すると手が伸びてきて、彼は思わず避けてしまいそうになった。
しかし、それは直ぐに制御プログラムが働いて失敗に終わる。
「触ってもわからないと思うわ。だって、注意深く見ないとわからないくらいですもの」
そのうちもとのように笑うようになるのかしらと、優しい瞳で微笑みかけ自分の顔を触っていた手に己の手を重ねてきたひなに、響はぴたりと動きを止めた。
「あなたは温かいのね。……まるで、本物の人間みたい」
肌質、温度と極力人間に近づけて。
触れられた際に不快感を与えないようにと作られている響の肌触りを確かめるように目を細めたひなに、彼はどのような対応をとったらよいのだろうかと色んな思考を巡らせた。
その結果、人間のような感情をもっているわけではない響は黙っているのが得策だと考え、ひなが満足するまでそのままでいる。
「ねえ、響。あなたの前の主人はあなたを手放してしまったけれど、私はそんなことしないわ。だって、あなたは私の唯一の家族で、かけがえのない存在ですもの」
――家族。アア、前ノ人間モソウ言ッテイタノニ、僕ヲ捨テタンダヨ、新シイゴ主人サマ。
ちくりと何か胸が痛んだ気がして、響はこれはなんなのだろうかと自分の中のプログラムに問いかけた。
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