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――複、雑。ソレガ理解デキナイト僕ハ必要トサレナクナッテシマウノダロウカ。
それなら、人間の感情を知りたい。
知って、ずっとこの人間のそばに置き続けてもらいたいと響は考え、ふっと離れたひなの瞳の奥を覗き込んだ。
――ドウスレバワカル?
瞳孔、目線、眼球の動きかた。
そこから複雑な感情を読み取ろうとするがそんなこと旧型アンドロイドには無理な話で、それが当たり前であるというのに響は自分が使えない、駄目なアンドロイドだからだと思い込みすがりつくようにひなの背に腕を回す。
――捨テナイデ、僕ヲ、捨テナイデ。
必要とされていたいのだ。前の主人のように、お前なんていらないといわれたくない。
彼にとっての一番の恐怖は必要とされなくなるということであり、だからいくら罵倒されたって、壊されかけたって、捨てられるまでずっと健気に介護を続けていたのだ。
「お願い、なんでもするから、ひなさま、僕を、僕を捨てないで……」
ぎゅうっと身体を密着させ彼女の体温をむさぼった響は、この人間のぬくもりを離すまいと首筋に顔を埋める。
この願いは、プログラムに植え付けられたシステムによってだというのに――。
「人間って、残酷ね」
創造したものに裏切られないように、こうやってシステムによって縛り付けるのかとひなが苦しそうに呟き、響は背中から移された彼女の手に頭を撫でられた。
「かわいそうな響。あなたはそういうモノなのだとわかっていたのに、私、あなたの口から“そういうモノなのだ”と言われるまで忘れてしまっていたわ」
次にその手が首筋に伸びてきて、自分たち人間とは違うのだと確かめるかのように、響は刻印されているバーコードをつーっと指の腹でなぞられた。
「ひな、さま……?」
「ねえ、響。お願い、私を信じて。前にも言ったけど、私はあなたを手放したりなんかしないわ」
「…………」
「……わかったわ。じゃあ、こうしましょう?」
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