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こくこく、と頷くひながこちらを向き至極嬉しそうに目尻を緩め、響はおいでと手招きされる。
「……どうして、アンドロイドなんかを。それに、旧型の介護用アンドロイドにする必要なんて」
ぼそっと呟かれたからか、ひなには聞こえていないようだ。
しかし響にはハッキリとその言葉を拾うことができて、彼はひなへと進めていた足をピタリと止めた。
「……?」
「ひなさま」
「ひな……なあ、ひな。寂しいなら、俺と一緒に住めばいい」
こちらに向けられていたひなの顔が、知らない人物へと向けられる。
それに酷く胸がざわつき、響は胸のあたりをぎゅっと掴んだ。
驚いているのか、ひなはただ突っ立って男性を見ており、さらりと髪の毛を一房取られ口づけられても一切動かない。
しかしその唇が続けて頬に触れたとき、さすがに我に返ったのかひなの肩が跳ね、彼女はわたわたと慌て手をぶんぶんと左右に振った。
――嫌、ダ。ヒナサマニ触レルナ。
二人の間に流れている空気が、とても腹立たしい。
その腹立たしいという思いはプログラムされていないはずなのに響は確かにそう思い、止めていた足を動かした。
「ごめん、ひな。こんなふうにアンドロイドを買うくらい、きみが寂しい思いをしていただなんて、俺、気がつかなくて」
「……っ、――」
「俺はずっと、ひなのことが好きだったんだ。……もっと早くに伝えたかったんだけど、弱っているきみに付けいるようなことはしたくなくて、だから言えていなくて。なあ、ひな、俺を受け入れてくれないか……?」
真摯な瞳は、嘘をついていないということだ。
――嫌ダ、ヒナサマハ僕ノ……ッ。
引き離すように間に割り込んだ響は、介護用アンドロイドには不必要な動作でプログラムされていないにも拘わらず“ハッと息を呑み”ひなを見下ろした。
――涙。ドウシテヒナサマ、泣イテイルノ……?
震えながら自分の裾を掴んできたひなが、その顔を隠すように背中に顔を埋めてくる。
これがどういった感情から行われたものなのか、響にはわからない。わからないからこそ慰めるように彼女の背中を撫で、響は大切に、大切にひなを扱った。
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