第三章 夫の疑惑

11/15
前へ
/69ページ
次へ
俺も女々しいというか、影響されやすいというか…。 そんな思いを胸に秘め、仕事を終えた俺はある店の前に立っていた。 目の前には『珈琲 (ともしび)』の看板。 そう、俺は結局、アヤのバイト先に様子を見に来てしまっていた。 アヤの雰囲気の変化に気付いてから数日。 あれ以来、俺の目にはアヤがすごく生き生きとしているように見えて。 それが俺じゃない誰かの為かもしれないと思うと、いてもたってもいられなかった。 とはいえ今日は早番、仕事帰りともなれば世間は間もなく夕飯時だ。 アヤの勤務時刻は過ぎているから、ここで会う事はないだろう。 でも、それでいい。 俺はただ、日頃アヤがどんな人達と働いているのか、それを見たいだけだから。 『勝つためには、敵をまず知らないと!』 また、岡本さんの言葉がよぎって苦笑する。 最近よく話すようになった岡本さんに、影響され過ぎかもしれない。 そうは思ったけど、それでも放っておくことなんか出来なくて。 俺は改めて、お店のドアを睨みつけた。 入るのはちょっと緊張するけども、普通に見れば俺はただの客でしかない。 だから大丈夫だ、気にする必要なんかない! ぐっと力を入れて、レトロな雰囲気のドアを押す。 カランコロン、と心地良いドアベルの音が鳴り響いた。 「いらっしゃいませ。一名様ですか?」 振り向いた店員に、俺はハッと息をのむ。 彼はおそらくソウタくんだろう。 確かにドラマの山崎君に雰囲気が似ている。 だけど問題はそこじゃなかった。 何だ、このイケメンは!? ドラマの山崎?確かにあいつもイケメンだ。 けど、コイツはそんなもんじゃない。 芸能人顔負けのイケメン…だと……? アヤは、どうしてその事を言わなかったのだろうか? 話のネタとして、一番に出てきても良さそうなものなのに。 まさか、隠したかったのか? だとしたら、それは何のために…? 「あの、お客様…?」 イケメンが俺を覗き込む。 だけど俺は動けずに、半ば呆然としてまま彼の顔を眺めていた。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

439人が本棚に入れています
本棚に追加