第三章 夫の疑惑

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我に返って、案内された席に座る。 イケメン、もとい『ソウタくん』はアヤの話し通り人懐っこい性格のようだった。 常連らしい雰囲気のおばちゃんに話しかけられ、笑顔で対応しているソウタくんには頭が下がる。 おばちゃんにとっては目の保養かも知れないが、明らかに仕事の邪魔だろうに。 そしてもう一人。 気になる存在である『マスター』を探して、俺は店内を見渡した。 元々、アヤは年上が好きだったんだ。 でも俺はタメで、むしろ数か月だけ年下で。 その事は、付き合い始める前にアヤの『好きなタイプ』を人づてに聞いて、軽く絶望したからよく覚えてる。 だから最初にアヤの不倫を疑った時、パッと頭に浮かんだのは『神代慶二』に似ているというマスターの方だったのだ。 チラリとカウンターを見れば、真剣な表情でコーヒーを淹れる男の人が立っている。 その髪型や雰囲気は、確かに『神代慶二』に似ていると言えなくもない。 けれど年齢は想像していたより遥かに上で、いくらアヤが年上好きだと言っても恋愛対象になるとは思えなかった。 いや、恋愛に年は関係ないのかもしれないけど…。 少なくとも俺が知っているアヤは、父親よりも年上の男を恋愛感情で見る事はないだろうと思えた。 ということは…。 コイツか!!! 「お待たせいたしました。ホットコーヒーです」 にこやかにカップを持ってきたソウタくんを、睨みつけないように気を付ける。 まだ分からない、証拠があるわけでも何でもない。 だけど、もしかしたら目の前にいるのが愛する奥さんの不倫相手かも知れないと思うと、俺の心中は穏やかじゃなかった。
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